奥歯を抜かなければならない方は、今一度、親知らずがあるかどうか、歯の移植ができないかどうかを検討してみて下さい。
奥歯を抜く基準は定まったものがなく、歯科医院によってその判断にばらつきがあります。
まずは歯周病治療、歯周組織再生治療および精密根管治療で歯の温存を試みましょう。
もし歯の温存が適用できないほど病状が進行している場合は、親知らずを移植する自家歯牙移植という方法があるのをご存じでしょうか?
歯を抜いてインプラント体を埋めるというのは、何処の歯科医院に行かれても提案を受ける治療方法でしょう。
しかし、インプラント体に勝るものは、ご自身の歯そのもので、これ以上の素材はどこを探してもありません。
奥歯が既になくなっている方でも、親知らずを移植することで咀嚼能率を格段に向上させることが可能です。
4本の奥歯がない方でも4本の親知らずが残っていれば、歯牙移植の適応症になり得るかもしれません。
また、先天的に歯の数が少ない方でも、自家歯牙移植および矯正治療により、正常な歯列を回復することが可能です。
小児の先天的歯牙欠損は、前歯および小臼歯を中心に見られます。
一般的に小児歯科では、移植を推奨していません。
しかし、乳歯から永久歯に生え変わり永久歯の形成が完了する成長過程であれば、歯牙移植をしても神経および血管までもがしっかり残せる可能性が大いにあります。
自家歯牙移植の歴史は古く、確立されてから50年以上経過している治療方法です。
自家歯牙移植は1950〜60年代より、虫歯で失われた抜歯痕に歯を移植することが適用されはじめました。
当時は、科学的な背景は乏しく、治療器具や衛生環境も整っていない状態での試行錯誤の歴史であったと思われます。
1970年以降に組織学的、病理学的および生物学的な研究が学術的に進められ、自家歯牙移植の生物学的原則および移植によって治るという科学的および理論的根拠が確立されて現在に至っています。
-
自家歯牙移植の対象
移植できる親知らずをお持ちの方は、以下のようなケースの場合、自家歯牙移植の施術可能対象となり得ます。
● 歯が折れやすい、難治性で奥歯を抜かなければならない場合
● 既に奥歯を抜かれている場合
● インプラント体を入れようかブリッジにしようか考えられている場合先天的に永久歯が少ない
先天的に永久歯の本数が少なく、歯間が広く空いていたり、乳歯が不健康な状態のままで残っている場合は、歯の移植が可能です。
この場合、矯正治療との併用治療が条件となりますが、自身の歯でできる限り口内環境を整えていくことができます。
前歯や小臼歯などの欠落が対象となることが多く、小児から成人までに適用できます。
これらのケースでは、人工物であるインプラント体を入れずに自分の歯できちんとした歯並びと機能を回復できる可能性があります。
- 自家歯牙移植のメリット
-
天然歯とインプラントの決定的違いは、その素材が自己の歯か人工物であるのかということになりますが、もうひとつ、歯の根元を覆う組織である歯根膜の有無の違いがあります。
天然歯は生きているため歯根膜からの豊富な血液循環を受け、細菌に対する天然の防御機能を働かせることが可能です。
また、天然歯は、口内の環境によって柔軟にその形および位置を変えながら生体の変化に追随することができます。
さらに、歯根膜は感覚圧受容器としての役割も果たしているため、繊細な食感や食べ物の歯触りなどについても感じることができます。
また、自分の歯を移植するとなれば、アレルギー反応や拒絶反応などが起こる可能性も著しく低くおさえることができます。
しかし、人工物であるインプラント体には、天然歯のような生体としての働きを望むことはできません。
また、歯で物をかむことで感じる感覚に指標である圧感覚閾値は、天然歯と比べて著しく鈍感になってしまいます。
ご自分の天然歯の圧感覚閾値は、前歯で1〜3g前後、臼歯で4〜10g前後であり、インプラント体では100g以上と言われております。
さらに、噛み合わせも天然歯同士の咬合では25μm(マイクロメートル)の厚みを感知し、インプラントでは55μm以上の厚みでやっと感じることができると言われています。
インプラント体で、天然歯のような感覚まで取り戻すと言うことは難しいということです。
- 自家歯牙移植のタイミング
-
歯を移植するタイミングは、大別すると抜歯後即時移植、抜歯後早期移植および抜歯後待時移植が考えられます。
歯牙移植において、移植床における悪い歯の抜歯と移植する歯の抜歯を同時におこなう即時型移植が治癒の成功率を高めることができます。
それは、移植床に歯根膜が存在していた方が移植に好都合となるからです。
たとえ悪い状態の歯でも、その歯を抜けば抜いた穴の側壁には歯根膜が少なからず残っておりさらに活性も高いことが期待でき、創傷治癒が即される効果が望めます。
しかし次のようなケースでは、移植床側の抜歯、しばらくしてから移植を行うのがよい場合があります。
-
移植床側の歯牙と移植歯との大きさの差がある場合
移植後、歯肉弁の大きさが大きくズレる場合は、移植のタイミングをずらします。
悪い歯を抜いてできた移植床と移植する歯の大きさと合わない状態です。
この場合、抜かなければならない歯を先行して抜歯し、歯肉の治りを4〜6週間以上待ち、歯根膜の状態回復を待ってから移植歯の移植を行います。移植床側の歯牙に嚢胞(細菌の温床)が存在
移植床において病変および嚢胞を除去した部位が明らかに移植歯よりも大きすぎる場合は、移植歯の移植タイミングをずらします。
これは病変した部位の回復を見極めてから移植を行います。
自家歯牙移植における治療ポイント
● 自家歯牙移植では、歯肉結合組織部いよる完全な付着が起こることを促す。
● 移植床あるいは移植歯の歯根膜が生きている内に移植を行う。
● 移植歯の移植による細菌汚染を防ぐ。
- 自家歯牙移植治療の流れ
-
来院1回目 自家歯牙移植の適応可否を診断(目安: 90~120分 )
● 問診とカウンセリング
● 各種精密検査
● 顔貌および口腔内写真撮影
● 歯面清掃
検査結果を即日判断し、治療計画を立案・説明することも可能です。
ご家族の賛同が得られることならびに治療計画にご承諾がいただければ、次回は手術になります。
その場合、感染予防ならびに腫れ止めの抗生物質が術前投薬されます。この薬は時限的なものであり、副作用の心配はいりません。来院2回目 自家歯牙移植手術
手術時間:通常60〜90分
局所麻酔のみの手術時間:〜90分
鎮静麻酔を併用した手術時間:〜150分
この施術では、麻酔専門医による鎮静麻酔の併用をお勧めしています(歯科恐怖症、基礎疾患有病者、処置歯数が多い場合には、こちらから要望させていただくこともあります)。来院3~8回目 消毒と抜糸
手術より約2週間後:
移植歯の感染根管治療(来院回数はあくまで目安)
手術からおおよそ1〜2ヵ月:
噛み合わせを診断(但し、状況に応じて期間は前後します)
手術から2〜3ヵ月:
問題なければ最終的な詰め物、被せ物を処置術後3~6ヵ月再評価
術部の治癒状態を検査し、メンテナンスを含めた今後の対応を検討いたします。